臨死体験?  人の世界編

ん?何かおかしい。何がおかしいんだろう?え?何だろう?明るくない。・・・そう!光がないんだ!何故?え?どこ?ここは、どこ?
元に戻ったつもりが、全く別の世界に!
光がない。明るくない・・・そうだ!暗い!暗いんだ!漆黒の闇のようだ。
上も下も右も左も何も分からない!パニックになった。
あの、甘露の雨の降る、暖かな春の日差しの光の世界を、私は探した。けれど、闇。何も見えない闇の世界。
戻ろう!さっきの世界に!私が望めば・・・!


・・・戻れないと分かった私は愕然とした。

仕方がない、と覚悟を決め、観察を始めた。


・・・・・???移動できない!いくら望んでも移動できない!何故?!何が違う?
その時、ブルッと身体が震えた。何だろう?この感覚は?・・・・・
そうだ!寒いんだ!え?寒い?・・・身体が冷たい!・・・
え?身体?身体って何?・・・なんでもいい。暖かくしなければ動けない。
でもどうやって暖める?どうして冷たい?寒い?


温もり・・・暖かいもの・・・血!そうだ、血が流れていないんだ。
その瞬間、ドクッ!と何か暖かいものが私の中で少しだけ流れた。
その、ほんの僅かな所だけ暖かくなった。
またドクッ!と。ドクッ!と。一定の間隔を置いて、規則的に流れる。
ああそうだ。心臓が動き出したんだ。でも遅いなあ。これじゃあ、全部ぬくもるまで時間がかかる。やっと左半分だ。あと半分。


おかしいなあ。暖かくなったのに、まだ移動できない。
その時、何かが聞こえた。何だろう?どこかで聞いたような・・・懐かしい・・・
次第にハッキリ聞こえてきた。
え?声!声だ!・・・泣き声だ!子供の泣き声!
その瞬間、私の中でありとあらゆる生き物が走馬燈のように!


それは、ミクロの生物からミジンコ・ナメクジ・ゴキブリ・・・と、まるで進化の過程を見るように映像が流れていった。あっという間だったが、地球上のすべての生物が流れていった。
そして・・・最後に「ヒト」が!
そうだ!私は今、人間の女として存在しているんだ!泣いているのは私の子供だ!可愛い、可愛い、私の子!!
触れたい!不安で泣いている我が子を安心させてやりたい!
動かない!何故?腕が動かない!え?腕?どこにあるの?指!指さえ動かせば腕も動くように・・・
だめだ。動かない。それなら、せめて声をかけよう。大丈夫だと。え?声が出ない!
ああそうだ。呼吸をしていないのに声は出ない。え?呼吸?どうやって?
ああそうだ思い出した!まず息を吐くんだ。吐かないと入ってこない。

「カハッ!」と音がした。心臓の鼓動に合わせて呼吸が始まった。
名を呼ぼうとした。何ていうんだっけ?・・・・そうだ!思い出した!


やっと子供も泣きやみ身体も僅かだが動くようになった。
・・・?ひどい吐き気・・・?そうか昨日飲み過ぎたんだ・・・と思うほどの状態だった。何故かわからないけどひどい、ひどい宿酔い状態だった。
そして更に、何故か私は前日の記憶をなくしていた。


回復には信じられないくらい時間がかかった。当時働いていたので遅刻するかと気が気でなかった。

仕事が終わって保育所に迎えに行く。
嬉しそうに走ってくる息子。
家に帰ってから一気にしゃべりだす。

「おかあさん、あのね、ボクこわかったよ。おかあさん、しんぞうがね、うごいてなかったんだよ。こうして、なんかいもしらべたのに、うごいてなかったの。
でね、いき、してるかな?と、おもって、こうしてね、しらべたの。そしたら、いき、してないの。
ティッシュをね、こう、やぶって、はなに、こうして・・・ぼくがすると、うごくのに、おかあさんはダメなの。
もう、しんじゃったかなあと、おもって・・・
でね、とけいをみたら、ながいはりが、ここだったの。みじかいはりが、ここ。でも、みじかいはりは、うごくのがわからなかったから、ながいはりだけ、みてたの。そしたら、ここまで、うごいたときに、おかあさんの、しんぞうがドクッって、うごいたんだよ。それから、ちょっとして、ハア〜〜〜ッって、いきして・・・」
途中から泣きじゃくっていた。


10分。その長い針は10分。
私は10分の間死んだ状態だったのだ。
そして恐らく、その10分が記憶をなくした理由だろう。


それは3回おきた。3ヶ月ほどの間に3回。
3回目には、さすがに休みをとって(歩けるようになって元気になってから)タクシーで病院へ行った。
別に異常はなかった。
ただ、血圧が70と35だった。普段130と75の私が、だ。
それ以来、調子が悪くなると宿酔い状態に悩まされている。
でも、ありがたい事に、また不思議なことに、この3回の臨死体験以来、心臓が1分間に250回も打う事はパッタリとなくなった。


数年後、今度は不気味な夢で悩まされる事になるとは思わなかったが・・・


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