那智の滝・二の滝・三の滝 御神域へ  2005.3.17.木

最初のうちは傘をさして、気持ちの良い山道をアップ・ダウンしていた。
絨毯を敷いたような感触の道を雨とはいえ気持ちよく歩いていた。
その後も、生駒や中山などのような、ドロドロで靴の裏にくっついて重くなったり、そのせいで滑ったりするような場所はなく、私の1番苦手で恐ろしい道はなかった。
この山は他の山と違って、雨に濡れてもぬかるんだ泥道にはなっていない。
石が多いからだろう。
その点は随分ありがたく、また安心して進めた。

原生林を眺めながら「わ〜!わ〜!わ〜!」と声をあげているうちに、次第に道は険しく、ともすれば踏み外してしまいそうになるほど狭い道になってきた。
そうして次第に列がバラけてきた頃、本当に急な坂が増えてくる。
もう傘などさしている余裕はない。手を使わないと上れない坂も出てくる。
そうなると杖さえも邪魔だ。傘はたたんで持たないといけない・・・傘こそ置いてくればよかった・・・まあいいや。イザとなったらホカしてしまえ。どうせ、またこの道を戻るんだから後で拾えばいいや。

「体重は山側へ!ステッキは谷側へ!」と山岳会の方が後ろから声をかけてくれる。
「はい!」
「足先や踵から下ろすんじゃあなくて、そのまま全体が一気に地面に着くようにした方が滑らないよ」
「はい!」

私は有り難い事に、前は達也クン、後ろは山岳会の方、とベテランに挟まれていたから助かった。
前を行く達也クンが足を置く場所を見て進み、後ろからのかけ声で勉強できた。

・・・どうやら私が一番怖がっていたから気を遣って下さったようだった。


あまり急な坂には太いロープが張ってあった・・・でも私は、このロープがダメだ。
それに下りだというのに右手で持つように張ってある(山側に張ってある)。
持つわけにはいかない。
しかし後ろから「ロープを持って」と声がかかる。あたりまえだ。
仕方なしに手を添えるが気が気ではない。

・・・川が・・・これ、渡るの?・・・
飛び石がいくつもあるし土嚢も所々にあるが、水かさが増しているのでスレスレになっている。
もちろん浸かっている石もある。やっと頭を出している、といった具合だ。
土嚢は、ちょうど水に埋もれかけ、岩は水が滑っているので、できるだけ土嚢から土嚢へ飛び移った方がいい。

ここで達也クンは私の後ろへ。ん?。転んだら助けてもらえるなあ。
私の前は宿が一緒だった、もう1人の山岳会の人になった。
・・・この人、さっきから様子がおかしい・・・ロープを持つ所から、やけに時間がかかっている。
腰が完全に引けてしまっている。
あまりに「落ちる」とか注意されたので精神的にまいったんだろう。
同じく山岳会の方が励ましているが、一旦引いてしまった気持ちはどうしようもない。
それを見てかえって安心した。
私より怖がっている人がいるという安心感。

その人は残りの山岳会の方が面倒を見るからと言うので、達也クンと私は先に渡る事になった。
「ここは一気に渡った方が安全だから、ボクがほとんど向こうへ渡ってから来て。ボクのまねをすれば大丈夫」
「はい!」
「なあ〜に、できたら川を普通に歩いた方が歩きやすいよ。ここは靴が隠れるほどしか水がないんだから」
「それもそうですねえ〜。じゃあ、安心して渡ります」

3回ほど渡ったかな?少しずつ深くなるけど最初から川を歩くつもりでヒョイヒョイ行けば簡単に渡れた。
途中で止まる方が難しい。


見事!土嚢の八艘飛びができた時は義経になった気分だった。


2つめの川を渡った頃だったろうか?
目の前に急に大きな滝が現れた!何というか・・・絹のような姿!雨のために水量も多く高い所から落ちるので勢いも強いけど、私には絹のイメージだ。

二の滝である!

思わず「わあああ〜〜!わああああ〜〜!」と歓声をあげた!
ひざまづきたいほどの感動!衝撃!
「すごいね!」と達也クン。みんなも、しばし呆然と見上げている。

こんな時、作家だったら、その感動を文字にして一層の感動を現せるのに!伝えられるのに!
こんな時、画家だったら、その衝撃を絵画にして一層の衝撃を現せるのに!伝えられるのに!

カメラすら置いてきた私には、現し伝える手段がないのが残念である。
・・・まあ・・・知りたい方は次にイベントがあったら参加して自身で感じて下さい〜!

さっきの腰が引けた人は2人に抱えられるようにしてやって来た。ホっと安心。
でも、三の滝までは更に険しく、水かさも多くなるので、ここでみんなの帰りを待つ事になった。
イベントの係の人が1人ついているらしい。

雨でドンドン水かさが増すので、落ち着いて眺める時間もなく三の滝へ向けて出発!
案内の方が
「ここからますます険しくなります。石が多くなってきます。落とさないように注意して下さい」と注意する。
緊張が一気に高まる。
「なあ〜に。そんなに大きな石はないし、小さいから落としても大丈夫や。でも落としたら、落とした〜!って大きな声で言えば構わないから。それだけは忘れないでボクの通りに登ってきて」
「はい!」


両手でひっかかりを探し、足の置き場を考え・・・まあ私は達也クンの通りにしたのでラクに登れた。
下りの急でオシリで降りるような坂も、最初からオシリで降りようと思えば怖くなかった。
だいぶ慣れてきた。でも、もうすでにステッキも邪魔になった。
「ステッキは使わないように!」と声が飛ぶ。

前が詰まって立ち止まった時、ふと見上げれば・・・ものすごい断崖絶壁が私に覆い被さっている!
「わああああ〜〜!すごおお〜い!」
「すごいね!これはすごい!でも歩きながらは危ないから止まって感動して(笑)」
「はあ〜い!」
後からも同じ会話が聞こえてくる。
あとで聞いたら、その上で・・・誰だったかな?・・・が3年間修行をされたらしい。

更に行った所で、もうひとつ別の流れが合流する場所があった。
ちょうど川の真ん中に、船の先端のように尖った岩が現れた。
まるで、頂上も見えない岩のバカでかい船が、こっちに進んで来るような迫力だ!

「わあああああ・・・・・・!わああああああ・・・・!す〜〜ご〜〜お〜〜い〜〜い〜〜っ!」
ここは二の滝の次に感動した場所。でも、怖さは最高の場所。

行く手を見れば、右手に大きな岩肌、そして・・・今までと違い濃い色の水・・・深い。足を置く岩すらない。
案内の人は「これで腰くらいです」
・・・泳げない私はプールですら胸まである所は絶対に行かない!
ましてや、こんな川で、こんな流れの中で・・・でもまあ考えてみれば、たとえ落ちて流されても、すぐにさっきの浅瀬に着くから大丈夫かあ。

「ここは足がかりがないから体重を足にかけたらダメ。指先にかけて。大丈夫。距離が少ないから大丈夫。ボクのする通りにして。」
「はい!」
右と左を間違えたら進めなくなるので慎重にまねをした。
なるほど!指先に力を入れると思いのほか安定する。
ロック・クライミングだっけ?あんな調子で岩肌を渡った・・伝った。人間はどんなことでもできる能力が眠っているもんなんだ!

そうこうして何とか三の滝に到着〜〜!
「やったあああ〜〜!やったあああああ〜〜!」と思わず叫ぶ。
「頑張ったかいがあるね!」と達也クン。
三の滝は二の滝と比べ、少し低い。低いが水の厚みがあって豪快に流れ落ちている。
向こうが女性的で、こっちは男性的だ。

みんな感動してカメラを持っていても写すのを忘れてボ〜っとしている。
晴れの日は、もっと簡単に来られるんだろうけど、今日のような悪条件でたどり着くと感動もひとしおだ。


しばし感動に浸りたかったが「帰りますよ〜!」と案内の人の声。
「え〜!」と一斉に声があがる。
達也クンが「水量が、これ以上増えたら帰れなくなるからね」
なるほど!忘れてた!
「・・・もしかして・・・さっきのトコを戻るんですよね・・・」
「さっき上手に渡れたんだから大丈夫。足に頼らないで指先に頼れば大丈夫!」
「はい!」

でもさあ・・・さっきと向きが違うんだよね・・・おまけに足も間違えてしまって次が出ない。
壁に貼りついてるわけで・・・どうせぇっちゅうんじゃ!
苦労して入れ替えていると後ろで「早よ〜渡れ!」って大きな声が何度も聞こえる。
私に言っているワケではないが、ビックリするし条件反射のように急ごうとする。
・・・アカンアカン!自分のペースを狂わしたらアカン!・・・

渡れるもんですなあ・・・!
落ちる事無く、遅れる事無く、無事!安全な場所まで戻れました!
もうここからは技術を要する場所はなく、安心して滑らないように下ればいいだけだ。

後ろはかなり遅れていた。
案内の人が引き返して確認に行った。
その間、待っていたわけだが、じっと立っている方が腰が痛くなる。歩いている方がマシだ。
今のうちにと達也クンにお礼を言った。
信じられない事に涙声になった。涙もにじんでくる。
「あれ?あれ?」といいながら震える声で礼を言った。

大学では山岳部に入っていてリーダーもしていたというだけあって、とても適切なアドバイス(かけ声も)をして下さった。
それが何とタイミングの良いことか!
判断も早くテンポがいいので、良いリズムが刻めた。
こういう人についてなら行けない場所はないだろうと思うくらい上手な指導だった。
・・・私は、かなあ〜り、ツイてる!・・・
ここで改めてお礼を!ありがとうございました!感謝しています!



予定のバスに乗れたが、乗ってしまうと一の滝?の「那智の滝」に行けなくなってしまう。
雨で、かなり時間がかかったのだ。
達也クンと私は青春18切符で帰る予定だったが、特急になっても、とにかく那智の滝を拝んでからでないと、と乗らなかった。
駅長さんは心配していたが全員が残った。



疲れ果てて、感動し尽くして、大満足の私です。

何しろ駅長さんが一緒なので電車の時刻など、聞かなくても教えてくれる。
駅長さんが大きな声で、
「今からバスに乗って帰ると大阪方面は青春18切符では途中から電車がなくなります。(もちろん私達は知ってます)
特急は6時18分しかありません。
それで・・・良ければ那智駅で途中下車して駅前の温泉に入りませんか?合羽を着ていても汗で濡れているでしょうから、せめて温泉で暖まってから帰られたらどうでしょう?バスは30分ごとに出ていますから1時間ほど入っていられますよ。
もちろん!お金は勝浦駅が出します!」
すぐさま「入ります!」と手を挙げたのは言うまでもない!

なんて決断力のある駅長さん!


大阪方面は達也クンと、一緒の宿だった山岳会の3人。
駅前で350mlのビールを買い、特急の気持ちの良い座席で・・・う〜〜〜〜!最高!
おまけに空いているのでバラバラに座った、贅沢〜!

新大阪でバラバラになり、家に着いたら11時近かった。


今、思えば夢の中の出来事のようであり、また確かな感触でもあり・・・
終わった時は「もう2度と来ない」と思ったが、また達也クンのリードで歩きたいという願望が日を追って強くなる。
その一方で「いつか脱臼しそうだ」という恐怖も大きくなる。
体育会系の私にとって麻薬のようなものだ。
右肩と左足に故障を抱えていて良かったかもしれない。
でないと我が儘な私は、どこぞの山岳会に入ってしまうかもしれない(笑!)

これからは、ますます気を付けてネットで調べて安心してから参加するようにします!


今回の長い日記を全て読んで下さった方、本当にありがとうございました!
感謝いたします!





inserted by FC2 system